自動改札機の普及と駅員の無配置化が進んでいる現代だが、かつては主要駅でも多くは有人改札だった。入場時に駅員に切符を手渡すと、使用済みのしるしとして改札鋏(かいさつばさみ/かいさつきょう)と呼ばれるはさみで切れ込みを入れてもらうのが鉄道の日常風景だった。
切れ込みは鋏痕(きょうこん)と言って、その形は鉄道会社や時代を通じて百数十種類あったという。旧国鉄では不正乗車を防ぐため、駅や時間帯によって使い分けていた。
鋏痕のいろいろな形は、切符を集めていた子どもの頃にとても興味を引いた。身近では、山口県の小郡駅(現新山口駅)の三角形が好きだった。しかしよく利用した防府駅と同じ凸形を入れる時間帯もあり、駅員には午前・午後で使い分けていると言われたように覚えている。
その後、JRに移行してしばらくたつと、入鋏(にゅうきょう)の代わりに日付入りスタンプを押すのが広まった。改札鋏は主だった駅では90年代前半には消えてしまったようだ。
関東私鉄の西武鉄道では先日、開業100年を迎えた4駅を巡り鋏痕を集める「改鋏ラリー」と題したイベントが開かれた。チケットレスが定着する中、不便さを逆手にとった着眼点には感心したが、一方で、かつての日常が売りになるのを見て時代の流れを痛感した。
首都圏で過ごした子どもの頃、改札を通る大量の乗客を駅員が改札鋏でリズミカルにさばいていた光景が印象に残っている。鋏痕のさまざまな形も、そんな昭和の鉄道風景とともに心に刻まれている。
※自動券売機で切符が買えるカードとして国鉄末期からJR初期に人気を集めた「オレンジカード」は、以下にまとめています
人気を集めたオレンジカード~キャッシュレスの先駆け | 歴鉄2番線
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