きっぷが買えるカードとして国鉄末期に登場した「オレンジカード」。対応する自動券売機が全国の主要駅に設置され、キャッシュレスの利便性と真新しさから急速に普及した。絵柄の種類も豊富で収集対象としても人気を集めた。
オレンジカードは旧国鉄が導入した磁気式プリペイドカードで、1985(昭和60)年3月の東京、千葉地区からスタートした。カードの額面は1000円、3000円、5000円、10000円の4種類で、高額の5000円と10000円のものは後にそれぞれ300円、700円分のプレミアム付きとなった。
鉄道車両を中心に多種多様な絵柄が登場した。新幹線や特急列車内でも発売され、旅行や乗車記念として買い求める人が多かった。オーダーメイドのサービスもあり、開店祝いや創立記念日などのプレゼントとしても活用された。
オレンジカードは増収や省力化にもつながるため、当時の国鉄は積極的に宣伝していたようだ。広島鉄道管理局内で配布されたチラシでも、表面で「きっぷが買える便利なカード」の見出しとともに、プロ野球・広島カープ選手を絵柄にしたカードを載せて魅力を伝え、裏面では写真を用いて実際の使い方を紹介していた。
そうした効果もあってか、既に86年8月末時点で全国の発行枚数が505万枚、発売額が103億円と大きく伸びていた。そのうちの3〜4割は未使用のままコレクションにされていたらしく、現場の増収にも大きく貢献した。
国鉄末期には764駅で使用可能になり、観光宣伝ツールとして名所旧跡をデザインしたものも売られるようになった。使えない駅もあったが、テレホンカードと同じように暮らしに定着していったように思う。
私が初めてオレンジカードを手にしたのは86年12月、広島市を訪れた時だった。1枚1000円と子どもが買うには少々高く、しかも最寄りの駅は未対応だったのである。「使えないものを買うのか」と、同行していた父親の少し渋い顔を今でも思い出す。
その後しばらくして地元でも使えるようになったのだが、1枚の薄いカードからきっぷが買えた感動は、子どもだったせいもあるが、後年に交通系ICカードを使った時よりも大きかった。
中高生のときは特に鉄道柄のものを少しずつ買い集めた。旅先で珍しいカードに出会った際は宝を探り当てたような気分だった。
90年代以降、自動改札機に直接投入できる「イオカード」などの磁気式プリペイド乗車カードや交通系ICカード「Suica」が普及すると、オレンジカードは役目を譲る形で2013年に販売を終えた。対応券売機は今も残っているが、使っている人はそれほどいないだろう。
現金が当たり前だった時代に現れたキャッシュレスの先駆けは、鉄道新時代を実感させるアイテムの一つだった。