2004年8月、JR新山口駅(旧小郡駅)に隣接する車両基地でイベントが開かれた。SLやまぐち号の蒸気機関車C57形やブルートレインけん引機EF65、EF66形が人気を集める中、一緒に並んでいたクラシカルな貨車に目が留まった。木材も使われた黒光りした渋い外観。旧国鉄時代からの2軸無蓋車、トラ45000形だった。
トラ45000形は1960(昭和35)年から63年にかけて約8千両が製造された。荷重上限は17トン、積載物によっては15トンとなっていて、車体にはそれを示す「コ」の表記も小さく入れられた。のちに床板を木製に、妻面を平板鋼板に改造したものは、元の番号の頭に1を付けた10万の位を持つ車番になった。
貨車はこのように趣味対象としてはディープなジャンルなのだが、ブルートレインばかりを追いかけていた少年時代の私には地味に映ったのか、ほとんど興味がなかった。当時の記憶といえば、踏切待ちのときに聞いた2軸貨車リズミカルな通過音くらいで、トラ45000形が働いている姿は配給列車でしか見たことがなかった。
その後、十数年たってから冒頭の新山口の「トラ145260」に出合った。同車は小郡駅時代から常駐していたようだったが、私には貨車は「風景の一部」と化していたようで、トラ145260をとらえた写真はなかなか見つからなかった。
しかし92年5月、たまたま使っていたレンズ付きフイルム「写ルンです」で撮った写真に、トラ145260の姿があった。撮影対象だった「カートレイン九州」のEF65 1109の右端、宇部線ホームとの間にポツンと佇んでいた。横長のパノラマタイプだったのが幸いして写っていたようだ。
「昔から見ていたのか!」
2004年のイベントで気に入った貨車が実は過去に何度も遭遇していたと分かり、トラ45000形には一気に親近感が湧いてきた。
地味に思えた2軸無蓋車だったが、その存在をしっかり認識すると逆に味わい深さを感じる。鉄道車両にもし心があったなら、ブルトレしか撮らなかった鉄道少年をどう思ったことだろう。側線で出番をじっと待つ小さな貨車の写真は、今も何かを語りかけてくる。