鉄道のまち小郡の扇形車庫

JR新山口駅は、山陽新幹線、山陽線、山口線、宇部線が発着する山口県の玄関口だ。春から秋にかけては島根県の津和野に向かう観光列車、SLやまぐち号も発着する。

2003年9月までは「小郡駅」だった。小郡は山陽道の宿場町だったが大正時代以降、山陽・山陰を結ぶ山口線の開通や三田尻(現防府)からの機関庫移転があり、鉄道のまちとして発展した。

機関区には蒸気機関車の進行方向を変える転車台があり、旧国鉄がSLやまぐち号の運転を決めたのは、こうした設備が残っていたことも大きかった。

鉄道のまち小郡の象徴だった扇形車庫=1987年

「鉄道のまち小郡」の象徴は扇形車庫だった。転車台を囲むように設けられたSL全盛期をしのぶ大きな建築物で、小郡では役目を終えたあとも十数年間残っていた。

取り壊し直前の1987年12月に撮影会が開かれ、別れを惜しむ鉄道ファンや国鉄OBらが訪れた。当時子どもだった私もその中にいた。周囲にぐるりと広がった大きな建物は新鮮に映ったはずだが、この日の私はなぜかC57形の車体ばかりを写していた。

「主役」の扇形車庫に背を向けていた鉄道写真初心者を見かねたのだろうか、ひとりのおじさんが「車庫を背景に撮ると雰囲気が出るよ」とアドバイスしてくれた。その教えを自分なりに実践してみると、車体だけとはまるで違う現場感のある写真になった。

転車台に乗るC57形1号機=1987年

JR各社では近年、車両基地の有料公開が定着してきた。イベントの開催は現場の負担も大きく今まで無料だったのが不思議なくらいだが、一方で数万円もかかるようになってしまうと、ごく普通の子どもの参加は難しくなりそうだ。小郡の扇形車庫での私とおじさんのような交流もなくなっていくのだろうか。

新山口駅のホームでは、S Lやまぐち号を通じたふれあいが見られる。蒸気機関車と一緒に笑顔で記念写真に収まる子どもたちを目にすると、ついうれしくなる。老若男女が交流する「鉄道のまち小郡」。令和の世でもその光景が続くことを願うばかりだ。

扇形車庫が解体された後の小郡運転区=1988年

※本稿は2022年に公開したブログ「わが心の鉄路」から移したものです。

bonuloco
東海道・山陽線の寝台特急に親しんだ元ブルトレ少年です。子どもの頃から手作り新聞を発行するなど「書き鉄」をしてきました。現在はブログ執筆を中心に活動し、ファンの視点から見た小さな鉄道史を発表しています。

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