山陽本線の名所・四郎谷の入り江

山陽本線に乗ったときの一番の楽しみは、車窓に広がる瀬戸内海。東京駅からのブルートレインで朝を迎えたときの、陽光を受けてキラキラと輝く景色は印象的だ。

山口県周南市から防府市にかけての戸田—富海間はさまざまな表情の海が広がる。その中ほどにある四郎谷地区の入り江は、風光明媚な名所として親しまれている。

寝台特急「あさかぜ」車内から
眺めた四郎谷の入り江=2004年

四郎谷は三方を山に囲まれ南側に海が開けた集落で、穏やかな入り江はかつて物流の大動脈だった北前船も避難していたという。

「やまぐちの棚田20選」に選ばれた美しい農村風景もあり、写真愛好家がよく訪れる。鉄道でも蒸気機関車時代からの撮影名所で、昔の雑誌などで初期の寝台特急の写真を見かけることがある。

四郎谷地区を走る寝台特急「富士・はやぶさ」=2006年

山陽本線の戸田—富海は海沿いに山を越えていく区間で、カーブとトンネルを抜けるたびに、生活感あふれる漁港、明るく広がる海水浴場、延々と続く堤防など、次々にシーンが変わって楽しい。

その中でも四郎谷の入り江は、小学生時代から普通列車で通るたびに気になる「謎のエリア」だった。車内からでも感じられる独特の静けさ、山と海に囲まれて隔絶したような集落—。のちに地図を見るようになって判明した場所は、駅からも国道からも遠く離れたところだった。

四郎谷の入り江を行く寝台特急「あさかぜ」=2004年

訪れたのは大人になった2000年代に入ってからだった。国道2号から入って山を越えると、思い出の入り江が見えてきた。その海辺に立つと、子どもの頃に車窓から感じたままの穏やかな雰囲気が広がっていた。

bonuloco
東海道・山陽線の寝台特急に親しんだ元ブルトレ少年です。子どもの頃から手作り新聞を発行するなど「書き鉄」をしてきました。現在はブログ執筆を中心に活動し、ファンの視点から見た小さな鉄道史を発表しています。

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