特急ヘッドマーク 幕回しの楽しみ

終点に着いた列車が折り返す際に見られる幕回し。いろんな行き先が書かれたロール状で車体の表示器に装着された方向幕が、指定の行き先になるまでグルグルと回る光景のことだ。最近は発光ダイオード(LED)による表示が増えて見かける機会は減ったが、はるか遠くの地名や日頃お目にかかれない駅名が現れたりして、眺めていると結構楽しい。


かつて東北、上信越方面へ多くの特急列車が発着していた上野駅では、行き先だけでなく、前面を飾るヘッドマークの幕回しが見られた。一番の楽しみは、別の地域を走っている列車のデザインが見られたり、既に廃止された列車が一瞬だけ「復活」することだ。少年カメラマンには格好の被写体だった。


1987(昭和62)年の夏休み、その上野駅を訪れた。当時は東北、上越新幹線が大宮から延伸されて在来線の特急はずいぶん減っていたが、それでも長野方面に向かう「あさま」は頻繁に発着し、秋田からの「つばさ」も1往復ながら残っていた。

上野駅で幕回しをする485系特急形電車。
前面にあるヘッドマークが次々と変わり、
いろんな列車名が現れた。(写真上から)
新幹線に昇格した「やまびこ」、国鉄末期
の短期間だけ見られた「むつ」、大阪—青
森を結び東京では見られなかった「白鳥」

このとき見たヘッドマークの幕回しでは、82年11月のダイヤ改正で廃止された東北特急のエース「ひばり」や新幹線に昇格した「やまびこ」をはじめ、ふだん日本海側を走り上野駅には現れない「白鳥」、青森—秋田を結び特急としてはわずか1年7カ月の存在だった「むつ」などが次々と現れた。ホームには何人もの鉄道ファンがいて、ちょっとした撮影大会になっていた。


コマの順番は決まっていたと思うが、詳しくなかった私は「次は何の列車が出るかな」とずいぶんワクワクさせられた。走っていたのが幼少期だったり、住まいから離れた地域だったりして見ることができなかった列車に、雰囲気だけでも接することができたのは喜びだった。


その後JRになると全国各地で、デザインに凝った個性派特急が登場。気づけばヘッドマークのない列車ばかりになってしまった。


最近では、珍しくなった幕回し自体が「商品」となり、撮影ツアーなどが企画されている。中にはLED表示器を使った「現代版」もあり、多彩なパターンの行き先や列車種別が楽しめるようだ。時代が移り変わり表示方式は変わっても、幕回しは鉄道ファンに夢を与えてくれる。

bonuloco
東海道・山陽線の寝台特急に親しんだ元ブルトレ少年です。子どもの頃から手作り新聞を発行するなど「書き鉄」をしてきました。現在はブログ執筆を中心に活動し、ファンの視点から見た小さな鉄道史を発表しています。

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