九州最古の木造駅舎・油須原駅〜往時の鉄道の面影を求めて

福岡県筑豊地方の3路線を引き継ぎ1989年に開業した平成筑豊鉄道。四季に彩られる田園風景は多くのカメラマンを魅了し、石炭輸送時代の歴史遺産も多く残ることから鉄道ファンの注目も集めている。2022年に復元改装され地域交流拠点に活用されている九州最古の木造駅舎、赤村の油須原(ゆすばる)駅を訪ねてみた。

旧国鉄時代の風情が残る油須原駅。
広い構内を単行の気動車が発着する

筑豊炭田で栄えた田川市の田川伊田駅から、平成筑豊鉄道田川線の軽快な気動車に乗り込む。今も石灰石が採掘されている香春岳を見送りながら農村風景を進み、約20分で油須原駅に着く。

往時をしのばせる広い構内。長いホームに1両の気動車がポツンと停車する光景は、鉄道の栄枯盛衰を感じさせる。構内踏切を渡って駅舎に向かう。国鉄仕様の駅名標、鉄パイプだけの簡素な改札口…そのノスタルジックな空間に懐かしさが込み上げる。

次の列車に乗るまで1時間近くあったが、時間を忘れさせる居心地の良さだ。この油須原駅にたたずんでいると、ゆとりのひとときを持つ大切さを思う。

ノスタルジーを感じさせる簡素な改札口
国鉄時代を思い出させる駅名標

手荷物預けの看板、待合室の伝言板、国鉄時代のポスターなど、内外装に懐かしいアイテムが見られる。事務室にはかつて駅員が使った鉄道資料を展示し、その仕事を体験できるスペースも備える。さながら博物館の様相だ。

さまざまなアイテムが思い出を呼び起こす

油須原駅は1895(明治28)年に当時の豊州鉄道の駅として開業。その後国有化され、全盛期には赤村の玄関口として機能し、広い構内では石炭貨物の補助機関車の切り離しなども行われていた。

地域やボランティアが維持管理し長年守ってきた駅舎は、近年はそのレトロな空間が注目され、各種ロケに使われるなど来訪者が増えているという。

レトロな外観が徹底されている油須原
駅。鉄道の古き良き時代を感じさせる

平成筑豊鉄道では、観光資源として期待されるこの油須原駅を地域交流拠点にしようと、西日本工業大学、赤村との産学官連携事業として復元改装工事に着手。レトロなデザインを前面に打ち出したほか、新たに制震装置を備えるなどして2022年に完成した。

駅員配置のない油須原駅だが、現在は「月イチゆすばる」というイベントが開かれ、タブレット閉そく機などの操作ができる鉄道作業体験室の公開やフリーライブ、カフェなどが行われている。

駅舎内にはミニギャラリーが設け
られ、写真展などが開かれている

鉄道事業者と地域、行政が手を取り合って盛り上げる。交流人口の増加による地域振興へ、油須原駅は役割を変えながら往時の姿を伝えていく。


【メモ】
油須原駅は平成筑豊鉄道田川線行橋駅から約40分、田川伊田駅からは約20分。同線は日中毎時1本の運転。同鉄道1日フリー乗車券「ちくまるキップ」(大人千円)もあり

bonuloco
東海道・山陽線の寝台特急に親しんだ元ブルトレ少年です。子どもの頃から手作り新聞を発行するなど「書き鉄」をしてきました。現在はブログ執筆を中心に活動し、ファンの視点から見た小さな鉄道史を発表しています。

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